AEDは電極パッドを貼り付ければ、すべての人に電気ショックが行えるものではありません。電気ショックが不要な状態であれば、電気ショックをする事ができない仕組みになっています。
このコラムでは、AEDによる電気ショックが適応となる心停止や、適応外となるのはどんな場合であるのかを詳しく解説いたします。
AEDについての基本情報はAEDとは?正式名称・使い方・BLS(一次救命処置)の手順を解説でも詳しく紹介していますのであわせてご覧ください。
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AEDが適応となる心停止
AEDは心電図を解析する機能が備わっており、その結果から電気ショックが必要となる不整脈の場合に限り、電気ショックが実行できる仕組みになっています。
電気ショックが必要になる不整脈について、多くは2つにわかれます。
電気ショックが不要な心電図(上)と、電気ショックが必要となる心電図(下)の比較
心室細動
心臓が原因の突然死の多くは、心室細動による心停止です。心室細動は心臓を動かす電気系統が何らかの原因で混乱し、正常な状態であればリズミカルに収縮をして全身に血液を送り出している心臓が、ブルブルと震えて血液が送り出せなくなった状態の不整脈です。
心臓が心室細動に陥ると、脳などの重要な臓器に血液が行き届かなくなり、やがて心臓も完全に停止して死亡してしまうとても危険な状態です。
心室頻拍(無脈性心室頻拍)
正常な心拍数は毎分60~100回であるところ、心室頻拍では心拍数が毎分120回以上になります。30秒以上続く心室頻拍は持続性心室頻拍と呼ばれ、心不全、心筋梗塞など、心臓に構造的な病気がある人や高齢者で多くみられます。心室頻脈の場合は動悸、脱力感、ふらつき、胸の不快感などがみられることもあります。
さらに無脈性心室頻脈に陥ると、心拍が速すぎるため全身に血液を送り出す事ができなくなります。この状態では心室細動と同様に全身から血流がなくなるため、意識を失って倒れ、呼吸もできなくなります。
AEDが適応外となる心停止
AEDはすべての心停止に有効である万能な物ではありません。AEDが適応がならない心停止については心静止があります。「心停止」と「心静止」の違いについても合わせて解説いたします。
心静止
電気ショックが必要になる不整脈である心室細動や無脈性心室頻脈は、心臓が血液のポンプの役割を果たせていないものの、心臓そのものはまだ動いている状態です。一方で心静止とは、心電図の波形が直線で、心臓がまったく動いていない(痙攣もしていない)状態です。心静止に陥った状態の心臓に対しては、電気ショックなどの電気刺激を与えたとしても効果がみられません。
そのため、心静止となった状態の人にAEDを貼り付けた場合、AEDの音声ガイダンスは「電気ショックは必要ありません」といったガイダンスが流れるようになっています。電気ショックが不要となった場合でも、呼吸や意識がない場合には救急車が到着し救急隊に引き渡すまでは心肺蘇生(胸骨圧迫)を続けてください。
心房細動
心室細動と似た言葉で心房細動という不整脈があります。心房細動とは、心臓の心房が細かく震えて血液を上手く送り出せなくなる心疾患です。
心房細動自体は命に関わるような重症な不整脈ではありませんが、動悸や息切れ、疲れやすいなどの症状があり日常生活にも支障が出るようになります。
また、心房内でできてしまった血栓が血流に乗り、脳や他の臓器の血管を詰まらせる事で、脳梗塞や全身性塞栓症などの発生率が高くなるため適切な治療が必要です。
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自動体外式除細動器(AED)とは
ここまでAEDが必要になる状態について詳しく解説してきました。ここからはAEDについて基本的な事から詳しくご説明いたします。
心臓の働き
正常な心臓は一定のリズムで常に収縮をしています。これは心臓が収縮する事で中にある血液を送り出す事にとり、全身に血液を送るポンプのような役割をしています。
血液は脳にとって非常に重要
脳細胞は常に血液から酸素を受け取っていますが、脳細胞は酸素不足に非常に弱く、5分程度の酸欠で壊死してしまうため、脳には血液(酸素)が常に供給されている必要があります。脳に酸素が足りない例えとして、一次的に血圧が低下した場合には脳への血流が低下して、脳が酸素不足に陥ることで、頭がくらくらしたり、目がくらんでしまう、気が遠くなるといった事があります。
心臓が心室細動などの不整脈によって血液のポンプ機能を失い全身から血流が無くなると、意識を失い倒れてしまい、呼吸もなくなります。病院外で、心室細動に陥り痙攣をしている心臓を治す唯一の方法は、AEDを含む除細動器による電気ショックです。
AEDの適応年齢
JRC(日本版)ガイドライン2010対応機種以降、AEDは1歳未満の乳児に対しても使用ができるようになったため、現在AEDはすべての年齢の人に使用する事ができます。
ただし、1歳未満の乳児を含む、小学校入学前までの未就学児に対しては、未就学児用パッド、または未就学児モードを用いてAEDを使用してください。未就学児パッドや未就学児モードがない場合には、パッドを貼り付ける際に、2枚の電極パッドが触れ合うことがないよう注意をして、小学生~大人用の電極パッドを使用してください。
AEDを子どもに使用する方法や注意点などは、AEDを子どもに使う方法と注意点のコラムにて詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
未就学児にAEDを使用する場合の注意点
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AEDの使い方と一次救命処置の流れ
それでは実際にAEDの使い方やAEDを用いた一次救命の流れについて順番に説明いたします。
一次救命処置の流れ
一次救命処置の流れは項目に分けると、以下の8項目になります。
- 安全を確認する
- 反応を確認する
- 119番とAEDを手配する
- 普段どおりの呼吸があるか確認する
- 胸骨圧迫を行う
- 胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせ
- AEDを使用する
- 心肺蘇生を続ける
それではまず、4.普段通りの呼吸があるか確認をするところまでを順番に説明します。
安全を確認する
傷病者を助ける前に、自分自身の安全を確保することを優先してください。車の往来がある、室内に煙がたち込めている状況などがあれば、状況に応じて安全を確保します。判断に迷う場合などは、119番通報をして、そこから指示を仰ぐといった方法もあります。
反応を確認する
安全が確認できたら傷病者の反応を確認します。肩を優しくたたきながら大声で呼びかけて、目を開けるなど応答があれば反応があると判断します。引きつるような痙攣などの動きがある場合、それは呼びかけに対して反応しているわけではないので、反応がないと判断します。
反応があるかないかの判断に迷う場合、わからない場合は心停止である可能性がある事を考えて行動してください。
119番通報とAEDを手配する
反応がなければ、大声で「人が倒れています!誰か来てください!」と応援を要請し、まずは119番通報を依頼します。また、近くにAEDがあればそれを持って来てもらうように頼みます。119番通報の際には、『反応の無い方がいます』と伝える事で救急側の判断状況がスムーズになります。
普段どおりの呼吸があるか確認する
心停止になると普段通りの呼吸がなくなります。仰向けの状態であれば腹式呼吸になるため、呼吸があれば胸や腹に動きがあります。10秒以内に、胸や腹の動きから呼吸をしているか、または呼吸をしているが普段どおりの呼吸であるかどうかを判断し、呼吸をしていない、または普段どおりの呼吸でない場合には心停止であると判断し、ただちに胸骨圧迫を開始します。
判断に迷った場合
呼吸があるかどうかの判断に迷った場合は、心停止とみなして胸骨圧迫を行ってください。心停止でない傷病者に対して胸骨圧迫を行ったとしても重大な障害が生じることはないとされていますので、ためらわずに胸骨圧迫を行います。
死戦期呼吸
心停止の直後にはしゃくりあげるような途切れ途切れの死戦期呼吸と呼ばれる呼吸がみられることも少なくありません。これは普段どおりの呼吸ではありませんので、死戦期呼吸が見られた場合にはただちに胸骨圧迫をおこないます。
反応はないが普段どおりの呼吸がある場合には、特に呼吸の様子に注意をしながら救急車の到着を待ち、呼吸がなくなったり普段どおりの呼吸でなくなった場合には、ただちに胸骨圧迫を開始してください。
胸骨圧迫(心臓マッサージ)と人工呼吸
胸骨圧迫を行う目的は、心臓が止まり全身の血流が無くなってしまった状態から、心臓の変わりに全身に血液を送りつづけることです。救急隊に引き渡すまで絶え間なく胸骨圧迫を続けることは、AEDによる心拍再開の効果を高める事や、脳の後遺症を少なくするためにも非常に重要です。
圧迫部位
胸骨圧迫をする位置は、胸の真ん中です。具体的には胸骨と呼ばれる胸の真ん中にある平らな骨の下半分になります。
場所の目安としては乳頭線を結んだちょうど真ん中あたりが胸骨の下半分になります。
圧迫方法
圧迫は手のひらで行うのではなく、胸骨の下半分に一方の手のひらの付け根を当て、そのもう一方の手を重ねて置き、手のひらの付け根に力が加わるようにします。
圧迫する位置と肩は垂直になるような体勢を取り、両肘をまっすぐ伸ばして体重を使って垂直に胸を押し込みます。
圧迫の深さとスピード
胸骨圧迫は胸が約5cm沈む程度の力で押してください。圧迫の深さが足りないと効果が十分に得られません。圧迫のテンポは1分間に100~120回のスピードです。
また、小児では胸の厚さの約1/3が沈み込む力で圧迫します。傷病者の体が小さく両手では強すぎる場合は片手で行ってもかまいません。
強く、速く、絶え間なく
胸骨圧迫は強く、早く、絶え間なく行う事がポイントです。成人の胸を約5cm沈む力で胸骨圧迫を続けることは非常に大変です。時間の経過とともに胸骨圧迫の質は低下しますので、他に協力者がいる場合には1~2分を目安に胸骨圧迫を交代してください。交代をする時には、胸骨圧迫の中断が最小限になるように声をかけあいながらタイミングを合わせて交代します。
胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせ
講習などをうけて人工呼吸の技術を身につけており、人工呼吸をする意思がある場合には胸骨圧迫とあわせて人工呼吸も行います。胸骨圧迫30回に対して人工呼吸2回として、この組み合わせを救急隊に引き渡すまで続けます。なお、2020年5月21日に厚生労働省より新型コロナウイルス感染症の流行を受け、救急蘇生法の指針について追補があり、成人に対しては人工呼吸を行わずに胸骨圧迫とAEDによる電気ショックを実施することとなっています。
音声ガイダンスに従って電気ショック
胸骨圧迫を行っている間に、先にお願いをしていた近くにあるAEDが到着します。AEDが到着したらすぐにAEDを使う準備に移ります。AEDは電源を入れると音声ガイダンスが流れ始めます。使い方は音声ガイダンスに従って操作をすれば、事前に使い方を学んでいない人でも誰でも使えるようになっています。
AEDの使い方は3ステップ
AEDは①電源を入れる、②電極パッドを貼り付ける、③電気ショックを行うの3ステップで使用できます。
電源を入れる
機種によって、ボタンを押して電源を入れるタイプと、ふたを開けると自動的に電源が入るタイプがあります。
音声ガイダンスに従い電極パッドを貼り付ける
電極パッドは素肌に直接貼り付けますので、傷病者の胸をはだけます。次に、密封された袋を破いてAEDの電極パッドを取り出します。電極パッドには電極パッドを貼り付ける位置のイラストが描いてありますので、それに従って電極パッドが素肌に密着するようにしっかりと貼り付けます。基本的に貼り付ける位置は胸の右上と左のわき腹です。
女性に対してAEDを使用する場合には、できる限り人目にさらさない配慮も大事です。女性に対してのAEDの使用方法については、女性へのAED使用の配慮と注意事項 ブラジャーはどうする?のコラムにて詳しく解説していますのであわせてご確認ください。
電気ショック
電極パッドを貼り付けると自動的に心電図の解析が始まります。その結果AEDが電気ショックが必要であると判断した場合には、「ショックが必要です」などの音声ガイダンスとともに充電が開始され、充電が完了すると警告音やショックボタンの点滅とともに「ショックボタンを押してください」といった音声ガイダンスが流れます。これに従ってショックをボタンを押し、電気ショックをおこなってください。このときAEDから強い電気が流れるため体が一瞬ビクッと突っ張ります。
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市民による救命活動の有効性
令和4年版 救急救助の現況(総務省消防庁)によると、一般市民が救急車が到着するまでの間に心肺蘇生を実施した場合と、救急車が到着するまでの間に心肺蘇生がされなかった場合を比較すると、心肺蘇生が実施された傷病者の社会復帰率は9.7%、心肺蘇生がされなかった傷病者の社会復帰率は3.2%と約3倍の差があります。
また、心肺蘇生だけではなくAEDによって電気ショックが行われた場合の生存率は約50%です。市民によってAEDを使い救命活動が行われれば、突然心停止の約半数の人を救えるのです。医療従事者ではない一般市民による救命活動でも、非常に高い有効性があります。
必要なのはあなたの勇気です
一次救命処置は特別な技術や知識は必要ありません。特別な資格がなくても誰でも行えるだけでなく、救急隊や医師が医療器具を用いておこなう二次救命処置よりも命を救うためには重要な役割となります。
心室細動などによる突然心停止に陥った場合、何もしていなければ救命率は約10%低下します。119番通報をしてから救急車が到着するまでの時間は平均で約9.4分(令和4年)となっています。救急車の到着をただ待っているだけでは、突然心停止の人を救う事はできません。偶然その場に居合わせた一般市民である「あなた」しかその人の命を救う事ができないのです。その時一番必要になるのは一歩踏み出す勇気です。このコラムを読んでいただき、AEDについての正しい知識を身に付けて、一般市民による救命活動の重要性を理解していただけたのであれば、もしもの時には勇気をもって一歩踏み出していただけますと幸いです。